競争相手を見るのではなく、実現したい未来を見る

2016年の初打ち合わせは、母校にて。

 

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「オンラインカウンセリング」という方法論は、伝統的でアカデミックな心理療法の考え方と相容れないと言われることが多くあります。「枠」の概念や、信頼関係の築き方、目的などが異なることが多いためです。 

アカデミックとひとことで言っても、心理療法には本当にたくさんの「流派」があります。アメリカでは心理療法の種類は400種類とも500種類とも言われていますが、主要な系統は力動系、行動理論系、人間性心理学系に分かれます。

特に私の母校である京都大学が伝統的に得意とする力動系とオンラインカウンセリングとは、基本的な価値観が大きく異なります。

オンラインカウンセリングサービスを立ち上げたいと考えている、という相談をしたときに、同じ学部で心理学を学んでいた同級生が一番に言ったことは「学部の先生には絶対言わないほうがいいね」でした。それくらい、違う価値観のもとに成り立ったものであると理解しています。

 なぜ400もの心理療法が共存しうるのか

なぜそんなにも多くの心理療法が存在していて、かつ淘汰されないかと言えば、圧倒的に効果的な唯一無二の流派が存在しないからです。社会の価値観の変化に伴う流行はあります。ただ、時間軸、問題の深度、相談者の価値観やニーズ、目的によっても、最適な心理療法が異なるため、どんな人にも、どんな悩みにも、どんな目的にも「良い」心理療法は存在しません。

その意味では、心理療法は目的や価値観に沿って利用者が選択すれば良いはずなのですが、それができるほどには情報が行き渡っていないのが現状です。さらに、ある程度専門的に学んだ心理療法家ほど「xx派は融通がきかない」「xx派のやり方は本質的でない」などの他流派を批判することがある、という話を聞いたことがあります。このような「他流派批判」が、利用者にはさらなる混乱を招いているように感じられます。

ビジネスの世界であれば、資本主義的価値観でその優劣が計られることが多いのですが、心理療法自体が本質的に多様な価値観を土台にして、多様な価値観に働きかけていく仕組みであるがゆえに、その数値化や相対化、相互理解が難しいのかもしれません。

 競合への意識の裏にある「ゆらぎ」

とはいえ、心理療法の世界においても、ビジネスの世界においても、競合を意識せずにいられないのは、自身のあり方に少なからずゆらぎを抱えているときだと思います。競争相手がそのゆらぎに対する脅威と映るので、否定せずにはいられないのではないかと思うのです。 

対照的に、自身の理論とその可能性についてゆらぎのない自信を持っている心理療法家や経営者は、他者を否定することなく自身を正当化する術を持っておられるように見えます。

ビジネスの世界に視点を移すと、成熟市場におけるパイの取り合い(ゼロサムゲーム)であれば、競争相手の勝利は自身の敗北を意味します。一方で未成熟な成長市場においては、それぞれの成長がすなわち市場そのものの成長になるのです。心理療法やメンタルヘルスケアの業界は、市場として成熟しているとはとても言いがたく、パイを奪い合うのではなく、共に成長していくためにお互いの強みを伸ばしていく時期にあります。

ひと昔前の日本の携帯電話業界が、競争相手を見ながら誰も使わない最先端の機能改善を続けた結果、スマートフォンという新しい世界観に業界ごと敗北したことは記憶に新しいことです。

競争相手の方を見ているばかりにその技術の可能性を閉ざしてしまうことがないよう、競争相手を気にするのではなく実現したい未来を見ながら、前を向いて走っていきたいものです。

その道のりの中でも、価値観の異同に関わらず、同じ未来を共有してくださる協力者の方や先生方の存在に勇気を頂き、心より感謝しています。

ブログ始めました

はじめまして。櫻本真理です。

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cotree(コトリー)というオンラインカウンセリングサービスを提供する会社で社長をしています。社長と言っても、たくさんの方々のサポートのおかげでなんとか成り立っている小さな会社で、たいそうなことはありません。ただ、オンラインカウンセリングのことは日本で一番考えていると自負しています。

私自身は、証券会社で株式のアナリストとして勤務した後、いくつかのIT企業のお手伝いを経て、2014年5月にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotreeを立ち上げました。

サービス立ち上げのきっかけとなったのは、私自身が軽度の睡眠障害心療内科を受診した際の5分間診療と過剰に思える投薬を受けた際に感じた違和感です。

素人ながらに日本の精神科医療はどうなってるんだ!と調べてみてわかったことは、一部の悪質な医師を除いては、医師やコメディカルを含む医療関係者は、持ちうる人的・時間的・経営的リソースの中では最適な医療の提供を志しておられるということです。

しかし、最善を尽くしても、軽度の疾患や未病の状態に対して適切に対処できる余剰リソースは医療の現場にはないことも多く、かつ軽症うつや未病うつの状態でも利用できる医療外のサービスが非常に限定的であること。これがオンラインカウンセリングの可能性を感じ、サービス立ち上げに至った背景です。

なぜブログを始めるのか

オンラインカウンセリングサービスを始めて1年余りが経ちましたが、「オンライン」という言葉の無機質さに、「カウンセリング」という曖昧な言葉の印象が相俟って、「よくわからない」「自分とは関係ない」「なんとなくあやしい」というイメージを抱かれることも少なくありません。また、オンラインカウンセリングという援助方法自体が黎明期でもあり、オンラインカウンセリングサービスを提供する立場として、実践に基づいた情報を発信する意味があるのではないかと考え、ブログを始めることにしました。

このブログは以下の目的のもと、不定期で更新予定です。

  • cotreeを「使ってみようかな」と思われている一般の方や、「登録してみようかな」と思われているカウンセラーの皆様に、オンラインカウンセリングについて知って頂き、判断の材料として頂くこと。
  • 当社のメンバーと、関わってくださっている方々と考えや現状を共有すること。
  • 当社の採用に興味をお持ちくださっている方に当社について理解して頂くこと。
  • メンタルヘルスケアやインターネットに関わる関心をお持ちの方にとって有意義な情報を共有すること。 

内容は、メンタルヘルスx IT領域のベンチャー企業であるcotreeという会社のまわりで起こっていることや、オンラインカウンセリングサービスの実践の中での学びや気づきを中心に、一般向け・専門家向けの内容が混在することになるかと思います。

このブログが、cotreeやオンラインカウンセリングに関心を持ってくださっている方との対話と相互理解のきっかけになれば、と考えています。

オンラインカウンセリングって何?

まずはcotreeが提供しているオンラインカウンセリングという一般には聞き慣れないサービスについて、ご紹介します。

オンラインカウンセリングは端的に言えば「インターネットを介した、心理専門家との対話による、心理状態の改善を目的として提供される援助」です。

心理状態の改善を目的としたサービスは極めて多くの形態をとり得ます。カウンセリングに限らず、セミナーや研修、占い、宗教の形をとることもあります。広義では、リラクゼーションや娯楽関連サービスも、間接的に心理的負担・ストレスの軽減につながるサービスと言えます。

カウンセリングという方法は「専門家との対話を通じて」「直接的に心理的問題と向き合う」点が特徴です。それをインターネットを活用して、つまり同じ空間を共有せずに行うのが、オンラインカウンセリングです。

その中でもcotreeのオンラインカウンセリングが対象にしているのは、以下のような方です。

  • 心の不調を自覚しているけれど、医療にかかるほどには深刻でない方
  • 対人関係の問題や不適応な思考パターンなど、医療では解決が難しい葛藤を感じている方
  • 様々な制約(後述)から対面での心理援助を受けることができない方

「医療にかかるほど深刻ではない」方を対象としているのは、脳の機能異常としての心の不調は、対話を通じて解決できる範囲が限られていると同時に、医療との連携を行うのが最善だからです。その一方で、対人関係や思考パターンの問題は、医療でカバーできる範囲が現状では限られていますし、薬を飲んで解決することではありません。

「病院に行くほどではない」「薬で解決するような問題ではない」けれども放置すれば心の病気につながり得るような、健康な人が健全に持ちうる医療・福祉の範疇外の不調に対して適切な心理援助を行うと同時に、必要に応じて適切な対面援助との橋渡しを行っています。

なぜオンラインか

心理援助は基本的に対面で、というのが常識的な考え方で、私もそれに同意します。特に心理援助の現場におられる方にとっては、インターネットを介した情報のみを頼りに援助を行うことに抵抗感を感じられることも多いと思います。

それでも「なぜオンラインか」という点に対しての回答は、「心理援助を必要としている人の多くは、そもそも対面の援助を自ら求められる状態にないことが多い」ということに尽きます。

  • 身近な人に相談したり、助けを求めることを苦手としている(性格的制約)
  • 仕事や子育てが忙しすぎて、対面援助を受ける時間がない(時間的制約)
  • 身近に相談できる人がいない(地理的制約)
  • 不安や憂鬱感が強く、対面での援助を受けるに至らない(体力・気力的制約)
  • 金銭的に余裕がない(経済的制約)

心の不調の原因あるいは結果として、上記のような制約があることも多く、まずはこのような制約があっても受けられる援助のかたちを提供する必要性を感じています。

通常の心理援助を受けることができない方に心理援助を提供すること。そしてその中で対面援助が適している方は対面援助につなぐことこれが、cotreeがオンラインカウンセリングサービスを提供するうえで果たすべき役割であると捉えています。

オンラインカウンセリングは「対面カウンセリングの代替」ではなく、「インターネットだからこそできる心理援助」サービスであり、その質も価値も、全く違うところにあると考えています。このあたりについても、少しずつブログを通じてお伝えしていきたいところです。

私たちは、オンラインカウンセリングの可能性を最大限発揮し、多くの方に対して「より良く生きる」という価値を提供できるサービスづくりを目指していきたいと思っています。温かく応援して頂けると大変嬉しいです。