『別件逮捕』されてきた話

幸福研究をしておられる慶応大学の前野隆司先生が年末にされていたお話がとても印象に残っています。

地域活性の文脈で「町を元気にしましょう!」と言って町おこしイベントを企画しても、参加するのはもともと意識の高い方たちだけです。

同様に、「幸せになりましょう!」と言って幸福理論に基づいた『ハッピーワークショップ』を開催しても、集まってくるのはすでに幸せな人ばかりなんですよね。本当にワークショップを提供したい人はなかなか集まってこない。

その人たちに届けるためには、何か別の目的を掲げた、言わば別件逮捕が必要なんです。

本来の目的をそのまま伝えるのでは、なかなか人は一歩踏み出してくれないことがある。そのひとたちが関心を持ちそうな別の目的を伝えることで、まず一歩踏み出してもらい、結果として本来の目的を達成する、ということです。

この「別件逮捕」という言葉の妙に、ストンと腑に落ちる感覚がありました。

 

早速、別件逮捕されてきました

そんなわけで、というわけでもないのですが、偶然にも早速別件逮捕される機会があったので、なるほど、こういうことかと思った話です。

昨日「思いを描き、夢を描き、未来を創造するワークショップ」に参加してきました。というのも、私の大好きな友人が、以前参加して魅力的だったそのワークショップにもう一度参加するからと誘ってくれたためです。そこには、経営者や活動家を含む、素敵な方々がたくさん参加しておられました。

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まずはアーティストの作品を鑑賞し、解釈には個性と多様性があること、表現には正解がないことを感じた後、自分の作品づくりに入ります。

共通の作品テーマは「2016年」。

「2016年」というテーマやその世界観をそれぞれが具体的に言語化し、そこから黙々と小さな色画用紙にテーマに沿った絵を描いていきます。描くこと自体は絵心のなさや不器用さが邪魔してなかなか思うようにいかないわけですが、それでも書いているうちにふと感情が浮かんできたり、そのパーツが象徴する物語が浮かんできたりします。

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 私のテーマは「信じる」でした。(右から三番目の緑のが私の作品です)

最初に書いた「個」を表現するはずのたくさんの丸を見ながら「境目を持つ」ことへの違和感を強く感じ、いろんな色を重ねているうちに、そもそもの紙の色と同じ緑色に戻って、またその上から描いていく。でも馴染みすぎてしまうと個性が失われてしまうことに気づきまた色を重ねていく。

そんなプロセスに、今自分のまわりで起こっていることを重ねたりしながら、ひとつの作品が出来上がっていきます。作品が出来上がる頃には、人からは見えないその制作過程の中で起こった葛藤や不安、そしてそれが変化していく様子を含めて「ひとつの作品」として自分で受け入れられるようになっていったように感じます。

 

個人的には「自分の内面を絵で表現する」というよりも「絵」の中に見えたものをきっかけに自分の内面を言語化する、という感覚でした。

 

ギャラリーのような空間で、アートを鑑賞して解釈をしてみたり、テーマを決めて絵を「描く」ことを通じて、他の参加者の感覚を共有したり、相対的に自分の解釈を見つめたりする体験はとても非日常的で気づきにあふれ、大いなる満足感とともに作品を持ち帰りました。

心理療法との接点

さて、ここでやっていたことは、 

  • 内面を表現することを通じて
  • 内面の言語化と、対話、解釈を可能にし
  • 普段の生活の中では得にくい気づきを得る

というプロセスです。

心理療法家の方はすでにピンときていると思うのですが、これは、箱庭療法に代表される「表現療法」と言われる手法と本質的には同じものです。

しかし、本質的には表現療法と共通していたとしても「表現療法を受けてみましょう!」という伝え方をしてたら、それほど多くの人が積極的には参加していなかったはずです。何よりも「友達を誘って参加しよう!」という気持ちにはならないでしょう。

今回参加したワークショップはもともとは子供向けに開催されていたものが、むしろ大人が関心を持ちはじめ、たくさんの企業研修や経営者研修で取り入れられるようになったのだそうです。それくらいに今のビジネスマンには表現する機会や、内省して対話するという機会がないということなのかもしれません。 

これは、カウンセリングを提供している方が「もっとカウンセリングを気軽に受けて欲しいよね」と感じるときに想定している「潜在ニーズ」であるとも言えます(潜在ニーズという言葉は良くないですが)。

「幸せになりたい」の裏側の「幸せでない自分」の語感

この事業をやっていて感じるのは「カウンセリング」という言葉にどうも抵抗感がある、という方はとても多いということです。

  • 幸せになる
  • 悩みを解決する
  • カウンセリング

どの言葉も、どこか「今の自分の弱さ」の語感を含むから、というのがその抵抗感の理由だと思っています。

自分の弱い部分を受け入れられずにいるときには「弱い自分」「不幸な自分」「悩んでいる自分」を前提とした行動というのは取り難いものです。「弱い部分」を受け入れることができれば、その弱さを補完する行動をとることができます。一方で「弱さ」を受け入れられずにいると、いつまでも問題帰属がずれたまま、的外れの問題解決行動を取り続けてしまうのです。

 

「地域活性」に参加するためには「うちの地元、このままじゃやばい!」という危機感が必要です。

「ハッピーワークショップ」に参加するためには「今の幸せに改善の余地がある」という客観的な自己認識が必要になります。

 

「未来を創造するワークショップです」という伝え方や目的設定をするから、経営者を始めとする利用者層が関心を持ち、参加しようという気持ちになる。結果として「自分の弱さ」を客観視できていたか否かに関わらず、内省し、その自分を受け入れるという効果を得ることができる。

さらに参加して得るものがあれば、友達にすすめてみようという気持ちになる。

 

いかに「見せ方」「目的設定」が大切なのか、改めて考えさせられます。

 

whiteship.net

 

 

 

競争相手を見るのではなく、実現したい未来を見る

2016年の初打ち合わせは、母校にて。

 

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「オンラインカウンセリング」という方法論は、伝統的でアカデミックな心理療法の考え方と相容れないと言われることが多くあります。「枠」の概念や、信頼関係の築き方、目的などが異なることが多いためです。 

アカデミックとひとことで言っても、心理療法には本当にたくさんの「流派」があります。アメリカでは心理療法の種類は400種類とも500種類とも言われていますが、主要な系統は力動系、行動理論系、人間性心理学系に分かれます。

特に私の母校である京都大学が伝統的に得意とする力動系とオンラインカウンセリングとは、基本的な価値観が大きく異なります。

オンラインカウンセリングサービスを立ち上げたいと考えている、という相談をしたときに、同じ学部で心理学を学んでいた同級生が一番に言ったことは「学部の先生には絶対言わないほうがいいね」でした。それくらい、違う価値観のもとに成り立ったものであると理解しています。

 なぜ400もの心理療法が共存しうるのか

なぜそんなにも多くの心理療法が存在していて、かつ淘汰されないかと言えば、圧倒的に効果的な唯一無二の流派が存在しないからです。社会の価値観の変化に伴う流行はあります。ただ、時間軸、問題の深度、相談者の価値観やニーズ、目的によっても、最適な心理療法が異なるため、どんな人にも、どんな悩みにも、どんな目的にも「良い」心理療法は存在しません。

その意味では、心理療法は目的や価値観に沿って利用者が選択すれば良いはずなのですが、それができるほどには情報が行き渡っていないのが現状です。さらに、ある程度専門的に学んだ心理療法家ほど「xx派は融通がきかない」「xx派のやり方は本質的でない」などの他流派を批判することがある、という話を聞いたことがあります。このような「他流派批判」が、利用者にはさらなる混乱を招いているように感じられます。

ビジネスの世界であれば、資本主義的価値観でその優劣が計られることが多いのですが、心理療法自体が本質的に多様な価値観を土台にして、多様な価値観に働きかけていく仕組みであるがゆえに、その数値化や相対化、相互理解が難しいのかもしれません。

 競合への意識の裏にある「ゆらぎ」

とはいえ、心理療法の世界においても、ビジネスの世界においても、競合を意識せずにいられないのは、自身のあり方に少なからずゆらぎを抱えているときだと思います。競争相手がそのゆらぎに対する脅威と映るので、否定せずにはいられないのではないかと思うのです。 

対照的に、自身の理論とその可能性についてゆらぎのない自信を持っている心理療法家や経営者は、他者を否定することなく自身を正当化する術を持っておられるように見えます。

ビジネスの世界に視点を移すと、成熟市場におけるパイの取り合い(ゼロサムゲーム)であれば、競争相手の勝利は自身の敗北を意味します。一方で未成熟な成長市場においては、それぞれの成長がすなわち市場そのものの成長になるのです。心理療法やメンタルヘルスケアの業界は、市場として成熟しているとはとても言いがたく、パイを奪い合うのではなく、共に成長していくためにお互いの強みを伸ばしていく時期にあります。

ひと昔前の日本の携帯電話業界が、競争相手を見ながら誰も使わない最先端の機能改善を続けた結果、スマートフォンという新しい世界観に業界ごと敗北したことは記憶に新しいことです。

競争相手の方を見ているばかりにその技術の可能性を閉ざしてしまうことがないよう、競争相手を気にするのではなく実現したい未来を見ながら、前を向いて走っていきたいものです。

その道のりの中でも、価値観の異同に関わらず、同じ未来を共有してくださる協力者の方や先生方の存在に勇気を頂き、心より感謝しています。

ブログ始めました

はじめまして。櫻本真理です。

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cotree(コトリー)というオンラインカウンセリングサービスを提供する会社で社長をしています。社長と言っても、たくさんの方々のサポートのおかげでなんとか成り立っている小さな会社で、たいそうなことはありません。ただ、オンラインカウンセリングのことは日本で一番考えていると自負しています。

私自身は、証券会社で株式のアナリストとして勤務した後、いくつかのIT企業のお手伝いを経て、2014年5月にオンラインカウンセリングサービスを提供する株式会社cotreeを立ち上げました。

サービス立ち上げのきっかけとなったのは、私自身が軽度の睡眠障害心療内科を受診した際の5分間診療と過剰に思える投薬を受けた際に感じた違和感です。

素人ながらに日本の精神科医療はどうなってるんだ!と調べてみてわかったことは、一部の悪質な医師を除いては、医師やコメディカルを含む医療関係者は、持ちうる人的・時間的・経営的リソースの中では最適な医療の提供を志しておられるということです。

しかし、最善を尽くしても、軽度の疾患や未病の状態に対して適切に対処できる余剰リソースは医療の現場にはないことも多く、かつ軽症うつや未病うつの状態でも利用できる医療外のサービスが非常に限定的であること。これがオンラインカウンセリングの可能性を感じ、サービス立ち上げに至った背景です。

なぜブログを始めるのか

オンラインカウンセリングサービスを始めて1年余りが経ちましたが、「オンライン」という言葉の無機質さに、「カウンセリング」という曖昧な言葉の印象が相俟って、「よくわからない」「自分とは関係ない」「なんとなくあやしい」というイメージを抱かれることも少なくありません。また、オンラインカウンセリングという援助方法自体が黎明期でもあり、オンラインカウンセリングサービスを提供する立場として、実践に基づいた情報を発信する意味があるのではないかと考え、ブログを始めることにしました。

このブログは以下の目的のもと、不定期で更新予定です。

  • cotreeを「使ってみようかな」と思われている一般の方や、「登録してみようかな」と思われているカウンセラーの皆様に、オンラインカウンセリングについて知って頂き、判断の材料として頂くこと。
  • 当社のメンバーと、関わってくださっている方々と考えや現状を共有すること。
  • 当社の採用に興味をお持ちくださっている方に当社について理解して頂くこと。
  • メンタルヘルスケアやインターネットに関わる関心をお持ちの方にとって有意義な情報を共有すること。 

内容は、メンタルヘルスx IT領域のベンチャー企業であるcotreeという会社のまわりで起こっていることや、オンラインカウンセリングサービスの実践の中での学びや気づきを中心に、一般向け・専門家向けの内容が混在することになるかと思います。

このブログが、cotreeやオンラインカウンセリングに関心を持ってくださっている方との対話と相互理解のきっかけになれば、と考えています。

オンラインカウンセリングって何?

まずはcotreeが提供しているオンラインカウンセリングという一般には聞き慣れないサービスについて、ご紹介します。

オンラインカウンセリングは端的に言えば「インターネットを介した、心理専門家との対話による、心理状態の改善を目的として提供される援助」です。

心理状態の改善を目的としたサービスは極めて多くの形態をとり得ます。カウンセリングに限らず、セミナーや研修、占い、宗教の形をとることもあります。広義では、リラクゼーションや娯楽関連サービスも、間接的に心理的負担・ストレスの軽減につながるサービスと言えます。

カウンセリングという方法は「専門家との対話を通じて」「直接的に心理的問題と向き合う」点が特徴です。それをインターネットを活用して、つまり同じ空間を共有せずに行うのが、オンラインカウンセリングです。

その中でもcotreeのオンラインカウンセリングが対象にしているのは、以下のような方です。

  • 心の不調を自覚しているけれど、医療にかかるほどには深刻でない方
  • 対人関係の問題や不適応な思考パターンなど、医療では解決が難しい葛藤を感じている方
  • 様々な制約(後述)から対面での心理援助を受けることができない方

「医療にかかるほど深刻ではない」方を対象としているのは、脳の機能異常としての心の不調は、対話を通じて解決できる範囲が限られていると同時に、医療との連携を行うのが最善だからです。その一方で、対人関係や思考パターンの問題は、医療でカバーできる範囲が現状では限られていますし、薬を飲んで解決することではありません。

「病院に行くほどではない」「薬で解決するような問題ではない」けれども放置すれば心の病気につながり得るような、健康な人が健全に持ちうる医療・福祉の範疇外の不調に対して適切な心理援助を行うと同時に、必要に応じて適切な対面援助との橋渡しを行っています。

なぜオンラインか

心理援助は基本的に対面で、というのが常識的な考え方で、私もそれに同意します。特に心理援助の現場におられる方にとっては、インターネットを介した情報のみを頼りに援助を行うことに抵抗感を感じられることも多いと思います。

それでも「なぜオンラインか」という点に対しての回答は、「心理援助を必要としている人の多くは、そもそも対面の援助を自ら求められる状態にないことが多い」ということに尽きます。

  • 身近な人に相談したり、助けを求めることを苦手としている(性格的制約)
  • 仕事や子育てが忙しすぎて、対面援助を受ける時間がない(時間的制約)
  • 身近に相談できる人がいない(地理的制約)
  • 不安や憂鬱感が強く、対面での援助を受けるに至らない(体力・気力的制約)
  • 金銭的に余裕がない(経済的制約)

心の不調の原因あるいは結果として、上記のような制約があることも多く、まずはこのような制約があっても受けられる援助のかたちを提供する必要性を感じています。

通常の心理援助を受けることができない方に心理援助を提供すること。そしてその中で対面援助が適している方は対面援助につなぐことこれが、cotreeがオンラインカウンセリングサービスを提供するうえで果たすべき役割であると捉えています。

オンラインカウンセリングは「対面カウンセリングの代替」ではなく、「インターネットだからこそできる心理援助」サービスであり、その質も価値も、全く違うところにあると考えています。このあたりについても、少しずつブログを通じてお伝えしていきたいところです。

私たちは、オンラインカウンセリングの可能性を最大限発揮し、多くの方に対して「より良く生きる」という価値を提供できるサービスづくりを目指していきたいと思っています。温かく応援して頂けると大変嬉しいです。